一時期は減少傾向だった債務整理のご相談が、ここのところ急増しています。

最近は、個人の方から債務整理のご相談をいただく中で、任意整理、個人民事再生、自己破産のどの方法を選択すべきかに頭を悩ますケースが多くなっています。これには様々な原因が考えられますが、債務のうちに利息制限法の制限利率を超える、いわゆるグレーゾーン金利による借入れの占める割合が低下したことが大きな原因の一つだと思われます。

上限金利引き下げによる影響

借入れの全てが法定金利内によるならば、任意整理をしても返済すべき債務の元本は変わりません。それでも、任意整理後の将来利息がゼロになれば最終的な返済額は少なくて済みますが、やはり月々の返済が大幅に楽になるとまではいかないケースが多いのです。

ただしこれは、そもそもの貸付金利が、以前は最高で年29.2%だったのが現在は年15%-20%に下がっていることによるのですから、借り主にとって悪いことではありません。もともとの借入れが法定金利内だから、任意整理をしても借入れ元本が減らないということです。

つまり、全ての借入が法定金利内であれば、現在の総債務額を36回の分割で支払うことが難しいのなら任意整理は困難なのであり、債務整理方法選択の判断基準としてはシンプルになるともいえます。なお、分割回数が36回というのはあくまでも目安であり、個々の任意整理においては最大で60回位までの分割で和解することもあり得ます。

総量規制による影響

もう一つの原因としては、クレジットカードのキャッシングが利用停止になったために、利用限度額一杯までショッピングを利用することで、債務のうちに占めるショッピングの割合が高くなっている方が多いことも挙げられます。手持ちのお金がないため日常の買い物の多くにカードを利用し、支払いはリボにしているようなケースです。ショッピングについては、金利は全て法律の範囲内ですから、任意整理をしても残高が減ることはありません。

これらは、貸金業法の改正により、上限金利が引き下げられたこと、また、「貸金業者からの借入残高が年収の3分の1を超える場合は、新たな借入れはできなくなる」との総量規制による影響だと考えられます。

ただし、借入が年収の3分の1を超えることが無いのであれば、そもそも自己破産をするような事態には陥らないはずです。よって、これは改正貸金業法の施行からまだ日が浅いために、それ以前に3分の1を超えて借り入れしていた分の返済が済んでいない可能性もあります。実際、「しばらく前に借入が出来なくなって今は返済だけになっている」というかたも多くいらっしゃいます。

しかし、それよりも大きな原因は総量規制の対象外となる借入が多いことです。総量規制の対象外として主なものは次の通りです。

1.住宅ローン、自動車ローン
2.銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農協等の金融機関からの借り入れ
3.クレジットカードによるショッピング

貸金業法改正による現状と今後

現在は、どこの銀行もカードローンに力を入れていますし、クレジットカードを作る機会も多いですから、定収入のある方ならばすぐに年収の3分の1を超える借り入れをすることができてしまいます。

また、ここのところ目に付くのは、「クレジットカードのショッピング枠の現金化」をしている方が多いことです。持っているクレジットカードでショッピングのみが利用可能な場合に、クレジットカードで購入したものをすぐに売却して現金を得るのが代表的な手口ですが、これも総量規制による弊害だと考えられます。

さらには、前回の記事に書いたとおり、この秋には、新生銀行が銀行本体として消費者金融業を開始します。消費者金融でありながら、総量規制の対象外であるわけです。「銀行だから安心」とのイメージを利用することで、多重債務に陥る方がまた増えていくのでしょうか。当然ですが、銀行だから大丈夫などということは決してありません。

貸金業法の改正により、上限金利が引き下げられたのはもちろん良いことですが、それでも年15%-20%が高金利であることに変わりはありません。また、総量規制がされたことにより、誰もが年収の3分の1を超える借入をする必要が無くなったのであれば素晴らしいことです。しかし、現実には総量規制の対象外からの借入が増えていることも事実でしょうし、まだまだ多重債務の問題が解消に向かっているとは思えません。

司法書士による業務としての債務整理のこれから

ところで、貸金業法の改正で上限金利が引き下げられたことにより、「過払い金」が新たに発生することは無くなりました。そのため、「過払い請求」を売りにし、派手な宣伝活動をしてきた司法書士や弁護士の事務所は、近い将来に淘汰されていくのかもしれません。

当事務所は、消費者金融に対して過払い請求をしようなどと誰も考えていなかった頃から、司法書士として積極的に債務整理業務に携わってきました。過払い請求が話題になっていたときも業務のスタンスを変えなかったため、事務所を拡大することはできませんでしたが、結果としてそれが正しかったと確信しています。

今後は、債務整理が決して「割の良い」仕事ではなかった「過払いバブル」以前に立ち返り、これからも変わらずご依頼者のことを第一に考え、地道に債務整理業務を続けていくつもりです。