債務整理をする際に、まず検討すべきなのは任意整理、続いて個人民事再生ですが、これらの手続によっても解決が困難な場合に選択すべき手段が自己破産です。
自己破産し免責許可決定が得られれば、一切の借金を返済する義務は無くなります(非免責債権を除く)。しかし、自己破産は所有している財産を処分、換価して返済にあて、それでも支払えない債務について免除を受ける手続ですから、不動産などの高額な財産は手放すことになります。
ただし、財産を手放すといっても、それは高額なモノを持っている場合だけです。たとえば、自動車も処分するのが原則ですが、売却しても値段がつかないような自動車であれば通常は維持できますし、その他の家財道具(テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど)を持って行かれることもありません。
自己破産・免責許可手続は、(非免責債権を除き)全ての借金返済義務を免除する非常に強力な手続であるため、免責許可決定をするにあたっては、免責不許可事由に該当する行為が無かったかにつき慎重な判断がなされることになります。
免責不許可事由として、最近はクレジットカードで買った商品(乗車券など)をすぐに売却する換金行為が問題になることが多いです。ショッピング枠の現金化は絶対にすべきではありません。他にも、浪費やギャンブルが借金の原因である場合も免責不許可事由に該当します。
しかし、免責不許可事由が存在すれば、必ず免責不許可になるわけではなく、「免責不許可事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる」とされています。
実際にも、多少の免責不許可事由に該当する行為があっても、最終的には免責が許可されているケースが多いと思われます。免責不許可事由に該当する行為の内容や程度によっては、破産管財人が選任され、その破産管財人による調査を経た上で免責許可決定がなされることもあります。
少なくとも専門家(弁護士、司法書士)が関与しての自己破産申立で、免責不許可が決定し手続が終結するケースは非常に少ないと思われますから、任意整理や個人民事再生などによる債務整理が不可能なのであれば、免責不許可事由が存在するからといって、すぐに自己破産申立を諦めるべきではないでしょう。
自己破産についての詳しい説明は、下記のページもご覧ください。
自己破産 (高島司法書事務所のサイトです)
(参考1) 免責不許可事由、非免責債権について
免責不許可事由、非免責債権については、破産法で次の通りの規定されています。あらためて解説するつもりですが、まずは条文のみ掲載します。
第252条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
1 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
2 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
3 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
4 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
5 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
6 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
7 虚偽の債権者名簿(第248条第5項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第1項第6号において同じ。)を提出したこと。
8 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
9 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
10 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から7年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法第239条第1項 に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第235条第1項(同法第254条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
11 破産法第40条第1項第1号、第41条又は第250条第2項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。
(第2項以下は省略)
第253条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
1 租税等の請求権
2 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
3 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
4 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第766条(同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第877条から第880条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
5 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
6 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
7 罰金等の請求権
(第2項以下は省略)