不動産の権利証を紛失した場合、多くの方が「権利を失ってしまうのでは」と不安を抱かれます。ここでは実務上のリスクと具体的な対応策を整理します。
1.権利証の種類と再発行の有無
現在「権利証」と呼ばれる書類は、
- 登記済証
- 登記識別情報通知
の2種類に大別されます。いずれも紛失や破損した場合でも、再発行はできません。
なお、権利証(登記済証、または登記識別情報通知。以下、「権利証」とします)を紛失しただけで権利者としての地位が失われることはなく、直ちに第三者に勝手に権利が移転することもありません。
ただし、紛失した場合には 権利保全上のリスク が生じます。特に「権利証」「実印」「印鑑証明書」の3点が揃って第三者に渡ると、不正な移転登記が行われる危険性があります。
2.主な対応策
(1)登記識別情報の失効申出
対象:登記識別情報通知のみ
法務局に「失効申出」を行うことで、当該識別情報を無効化できます(登記済証についてはこの制度は利用できません)。
登記識別情報を紛失しただけでは、登記記録上の権利には何らの影響もなく、また、登記名義人ではない人が、他人の登記識別情報を用いて不正な登記を行うことは、一般的には容易なことではありません。
それでも、登記識別情報を紛失し,これが誰かに盗み見られた可能性がある場合などには,登記名義人またはその相続人その他の一般承継人の申出により、登記識別情報を失効させる制度が設けられています。
失効後、識別情報が必要な登記を行う場合には、以下の代替手段を用いることになります。
- 資格者代理人による本人確認情報
- 事前通知制度
- 公証人による本人確認
(2)不正登記防止申出
対象:登記識別情報通知・登記済証の両方
不正登記防止申出とは、申出から3か月以内に対象となる登記申請があった場合、その旨の通知を受けられる制度です。
これはあくまで「通知制度」であり、申請が自動的に却下されるわけではありませんが、登記官による本人確認調査が行われる可能性があります。
不正登記防止申出は3ヶ月という期限付きの制度であるため、権利証の紛失直後などリスクが高い時期に有効といえます。
もしも、紛失した権利証を犯罪などに利用される、差し迫った危険があるというような不安がある場合には,3か月ごとに不正登記防止申出の手続をするひつようがあります。
(3)実務上の留意点
権利証の紛失だけでは登記上の効力は直ちに失われません。しかし、権利証、実印、印鑑証明書の3点が揃っていれば、勝手に所有権移転登記がおこなわれてしまう恐れもあります。
司法書士が登記に関与する場合には、登記義務者についての本人確認をするので、上記3点があっても不正な登記が行われる可能性は低いです。それでも、実印と印鑑証明書を同じ場所に保管しないことが重要だといえます。
3.Q&Aで分かる!権利証をなくしたときの対処法
(1)権利証をなくしてしまいました。どうすればいいですか?
まず安心してください。権利証をなくしただけでは、不動産の権利がなくなったり、勝手に他人に移ってしまうことはありません。ただし、「悪用されるリスク」はありますので、必要に応じて法務局に手続きをしておくと安心です。
(2)そもそも「権利証」って何ですか?
現在、不動産の権利証といった場合には次の2種類の書類があります。
- 登記済証(古いタイプの権利証)
- 登記識別情報通知(現在の権利証)
登記済証は古いタイプの権利証であり、現在では新たに発行されることは通常ありません。現在では、新たに不動産の所有権を取得した場合などには、登記識別情報通知書が交付されています(登記識別情報とは)。
なお、そもそもの話として、権利証という書類は存在せず、登記済証、または登記識別情報通知が正式名称です。しかし、不動産の「権利証(けんりしょう)」といわれるのが一般的です。
なお、登記済証、登記識別情報通知については、どちらも再発行はできません。
(3)権利証をなくしただけで何か問題がありますか?
単に紛失しただけでは大きな問題は起きません。ただし、もしも「権利証」「実印」「印鑑証明書」の3つが揃って第三者の手に渡ってしまうと、不正に登記されてしまう恐れがあります。
(4)なくしたときにできる対策はありますか?
あります。大きく分けて2つの方法があります。
登記識別情報の失効申出(登記識別情報通知の場合のみ)
→ 法務局に届け出れば、その識別情報を無効にできます。
不正登記防止申出(登記済証・登記識別情報通知どちらでも可能)
→ 申出から3か月以内に登記申請が出たときに通知してもらえる制度です。あくまでも「通知制度」であり、申請が自動的に却下されるわけではありませんが、登記官による本人確認調査が行われる可能性があります。
(5)売却や相続のときに困ることはありませんか?
不動産を売却して登記をするときには、権利証が必要になります。もし失効手続きをしていたり、なくしてしまった場合でも、次の方法により登記をすることができます。
- 司法書士など専門家による本人確認情報
- 法務局の事前通知制度
- 公証人による本人確認
なお、不動産の相続登記については、権利証(登記済証、登記識別情報通知書)の提供は通常不要なので、相続による名義変更をするときには、権利証がなくとも問題はありません。
(6)日常で気をつけることは?
一番のポイントは 権利証と「実印」「印鑑証明書」を一緒に保管しないこと です。セットで盗まれるとリスクが高まります。また、不動産の売却や相続のタイミングで紛失に気づくケースも多いため、あらかじめ場所を確認しておきましょう。
コメント