住宅ローンが払えないとき
失業や収入の減少などにより、住宅ローンを払うのが困難になっている方からのご相談が増加しています。
住宅を維持し、今後もローンの支払いを続けていくことを希望されるときには、借入先の金融機関に対して返済方法変更を求める方法や、裁判所での民事再生手続きを利用することが考えられます。
住宅ローンを返していくのが困難であることが明らかなときには、他からの借入れによって返済しても一時しのぎにしかなりません。支払いが遅れてしまう前にご相談ください。
住宅ローンが払えないとき(目次)
1.住宅ローンの返済方法変更
1-1.中小企業金融円滑化法の期限到来後の状況
1-2.住宅ローンの返済方法変更の問題点
2.民事再生
2-1.民事再生とは
2-2.民事再生の効果(負債の大幅な減額)
2-3.民事再生の手続き
1.住宅ローンの返済方法変更
月々の住宅ローン返済が苦しいときには、借入先の金融機関などへ返済方法変更の申込をすることをまずは検討します。かつては、金融機関に返済方法変更を求めても、応じてもらうのは難しいことが多かったようですが、現在では状況が変わっています。
1-1.中小企業金融円滑化法の期限到来後の状況
平成21年12月4日に施行された、中小企業金融円滑化法(正式名称は『中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律』。返済猶予法といわれることもあります)により、銀行などの金融機関が、住宅ローンの返済方法変更へ積極的に応じるようになりました。
中小企業金融円滑化法は、平成25年3月31日に期限を迎えましたが「金融機関が引き続き円滑な資金供給や貸付条件の変更等に努めるべきということは、今後も何ら変わらない(金融庁)」としています。
円滑化法の施行日(平成21年12月4日)から、平成25年3月31日までの間におこなわれた返済方法変更の実績をみると、条件変更の実行率は90%を超えています。
今後も、金融機関が引き続き円滑な貸付条件の変更等に努めるべきとの方針に変更がないのであれば、大多数のケースで住宅ローンの返済方法変更が可能だということになります。
たとえば、住宅金融支援機構(旧:住宅金融公庫)ウェブサイトの金融円滑化への取組についてには、次のような記載があります。
中小企業金融円滑化法(「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(平成21年法律第96号)」をいいます。)は、平成25年3月末を以て終了いたしましたが、法終了後においても、住宅金融支援機構の金融円滑化に向けた取組については、何ら変わるものではありません。
1-2.住宅ローンの返済方法変更の問題点
現在では、住宅ローンの返済方法変更が容易になっているとはいえ、その利用については慎重な検討が必要です。住宅ローンの返済方法の変更をすることで、毎月の支払いは一時的に楽になったとしても、支払総額が増えてしまうことが多いからです。
返済方法の変更では、返済期間を延長したり、元金の返済猶予を受けることで、月々の返済額を減らそうとします。返済期間を延長すれば、月々の返済額を抑えることはできますが、総支払額は増えることになります。さらに、返済期間が長くなることにより、保証会社に追加の保証料を支払う必要も出てきます。
また、返済が困難なのが一時的であるならば、その間の元金支払いを据え置いて利息のみの支払いとすることで、無理なく支払いができるかもしれません。ただし、この方法でも、元金の返済猶予を受けている期間に支払った利息の分だけ、総支払額が増えることになりますし、追加の保証料が必要になるのは同様です。
上記のように返済方法の変更をした場合、金利の引き下げを伴うのでなければ、総返済額は増えてしまうことになります(金利の引き下げに応じてもらうのは、通常は困難だと思われます)。それでも、現時点で収入の範囲内での返済が難しいのであれば、返済が滞ってしまう前に検討する価値はあるといえます。
2.民事再生
2-1.民事再生とは
住宅ローン以外にも、銀行や消費者金融、クレジットカードのキャッシングなどの借入れがある場合には、民事再生による債務整理が有効なことが多いです。
民事再生によっても、住宅ローンについては一切の減額は無く、元本および利息の全額を支払う必要があります(返済条件変更は可能です)。そのため、住宅ローン以外の借入れがない場合には、民事再生を利用しても意味がないのが通常です。
ところが、民事再生では、住宅ローン以外の債務について最高8割の返済免除を受けられる可能性があるのです。このような債務の免除を受けられるのが、民事再生を利用する最大の利点です。
2-2.民事再生の効果
住宅ローン以外の債務が500万円だったとして、民事再生によってその8割(400万円)が免除されれば、返済すべきなのは100万円のみとなります。
具体的には、「100万円を3年間で返済する」との再生計画案についての認可決定を裁判所から得た後に、現実に返済を完了したときには、残り400万円の返済義務が消滅するのです。
民事再生では、自己破産とは違って、住宅を手放さないで済みますし、職業などの資格制限もありません。デメリットとしては、民事再生を利用してから7年程度の期間は信用情報に登録されてしまいますが、これはどのような債務整理であっても似たようなものです。その他には、なにも影響がないのが通常であり、誰にも知られることなく手続できる場合がほとんどです。
また、民事再生申立の手続を司法書士に依頼した場合、裁判所への申立書提出や、その後の裁判所とのやりとりも全て司法書士にお任せいただけますから、一度も裁判所に行くことなく手続が可能です(千葉地方裁判所松戸支部の場合)。
上記のとおりなので、民事再生は裁判所を利用する法的な債務整理手続ではありますが、手続をするにあたって多大な困難や苦痛をともなうものでは無く、その後の生活への影響も少なく済むことが多いと考えられます。
民事再生は借り手にとって極端に有利な制度に感じられるでしょうが、これが事実なのであり、個人版の民事再生が平成の徳政令などと表現されることがあるのも納得できるところです。
したがって、住宅ローン以外にも債務を抱えていて返済が困難になるおそれがある場合は、積極的に検討すべき手段だといえます。
2-3.民事再生の手続き
個人版の民事再生を利用できるのは、継続的または反復して収入を得る見込みがあり、かつ、住宅ローン以外の債務が5,000万円を超えない方です。サラリーマンなどの給与所得者はもちろん、個人事業主でも継続的または反復して収入を得る見込みがあるならば利用可能です。
民事再生では、住宅ローン以外の債務については、再生計画で定めた金額を3年間支払うことで残りの支払いが免除されます。たとえば、500万円の債務があった場合、その2割である100万円を3年間で支払うとの再生計画を定めたとすれば、毎月の支払額は約28,000円です。つまり、毎月28,000円ずつの支払いを3年間(36回)することで、残り400万円の免除を受けることができるのです。
また、住宅ローンについては、当初の約定通りの支払いを続けるケースが多いですが、民事再生の手続きにおいて、住宅ローン債権者との協議のうえで返済条件の変更をすることも可能です。